ありふれたアミノ酸、グリシンとは?
グリシンは、エビやホタテなどにも含まれる非必須アミノ酸の一つで、最近では睡眠に効果があることで、睡眠サプリメントにも多く使われています。ここでは、グリシンの効果や副作用などを説明していきます。
グリシンは体内でも合成可能なアミノ酸のため、必ずしも食品から摂取しなければならない非必須アミノ酸になります。そのため、普段きちんとした食生活をしていれば、グリシンが不足することはありません。そのため、2002年に行われたある薬の有効性を証明する実験までは、特別な働きがないと考えられていました。
しかし、この2002年の実験で、プラセボ(偽薬)としてグリシンを飲んだ被験者の人が、翌日に身体のダルさが改善されたことに気付いたところから、グリシンの睡眠改善効果に注目がされるようになり、今では、睡眠サプリに使われる代表的な成分の1つになりました。
グリシンで睡眠が改善される理由は、深部体温の低下、血流の上昇、脳波の変化などが挙げられます。グリシンが睡眠に良いと言われている理由を、詳しくご紹介していきます。
グリシンには深部体温を低下させる働きがあるとされますが、人間は約0.5℃深部体温が下がることで、眠気を催すようになると言われています[※1][※6]。
深部体温は体の内部の温度のことで、日常生活において体温計で計る体温のことではありません。グリシンが深部体温を低下させる理由は、血流を促進させるからだと言われています。血流が促進されると、体の表面の体温は高くなっていきます[※1]。
表面の体温が高くなると、熱放射によって深部体温は徐々に下がっていくことになります。これと似た作用を得られるのが入浴です。グリシンを摂取すれば、入浴後のような効果をすぐに得られるのです。
深部体温は通常、「サーカディアンリズム」と呼ばれる体内時計に合わせて、夜になると低下するようになっています。グリシンは、脳内で体内時計を司る「視交叉上核」という部分に作用し、血流増加、深部体温低下作用をもたらすため、スムーズな入眠につながるでしょう[※1][※5]。
グリシンを摂取した後の脳では、「δ波」という脳波が増えることがわかっています。δ波は、深い睡眠状態の時に現れる脳波です。グリシンを摂取することでδ波が増加し、睡眠の質を高めることができます[※10]。
睡眠中には「θ波」と「δ波」が現れますが、δ波が現れている睡眠は、周波数によって2種類[※7][※8]。
グリシン摂取後に増加するδ波は、特に低い周波数のδ波。周波数が低ければ低いほど、深い睡眠であるということになるため、睡眠の質に対して高い期待ができます[※10]。
実際の研究結果では、グリシンを摂取した後に低い周波数が増えたとのことなので、「徐波睡眠」の部分が多くなっていると考えられます。このように、グリシンは深い眠りの脳波を増やすため、眠りの質を高め、熟睡へと導いてくれるでしょう[※9]。
グリシンを摂取すると、翌朝の疲労感が少なくなるという報告もあります。これは、徐波睡眠によって熟睡感が高まるせいだと考えられます。しっかり眠ることができるので、気分よく起きることができ、スムーズに体が動くようになります[※1][※2]。
δ波が増えるというと、日中の眠気が気になる方がいるかもしれませんが、グリシンを摂取しても、日中の眠気にはつながりません。むしろ、疲れが取れるため活動的に動けます。
深い眠りへと誘ってくれるグリシンですが、副作用などは特に報告されていないものの、過剰摂取では問題がある場合もあります。
グリシンは、動物用の医薬品や飼料などにも含まれており、それらを使用した動物を食べることによって、人間の体内に入ることも考えられます。しかし、その程度の摂取では安全性があると認められている物質です。
厚生労働省からも「健康を損なう恐れがない物質」として指定されているため、通常摂取では問題がありません[※4]。
通常摂取では問題がないグリシンですが、万が一過剰摂取をしてしまった場合、重い副作用が出てしまう可能性も。鶏を使った実験によると、1日に4,000mgのグリシン投与を行ったところ、急性中毒症状を引き起こしたと報告されています[※4]。
しかし、鶏が体重3kgだとして、体重60kgの人間で考えると80,000mgの摂取量。これだけの量を摂るのは至難の業でしょう。
ラットにグリシンを慢性的に過剰摂取させたところ、次のような副作用が発生したとされています[※4]。
しかし、これらの症状も過剰摂取の結果ですので、1日の摂取量を守っていれば問題はありません。
人間で注意したい部分が、医薬品との併用です。副作用があると考えられている医薬品は、「クロザビン」という統合失調症の治療薬。クロザビンを服用しながら、グリシンを1日30g以上摂取した場合、統合失調症の症状が悪化する可能性があります[※3]。
他の医薬品でも組み合わせによって、思いもよらない副作用が発生する可能性もあるので、医師に相談してから服用してください。
グリシンの摂取量は、1日3g程度が理想的だと言われています。グリシンが含まれている食品としては、イカ、エビ、カニなどの動物性たんぱく質です。また、食品添加物としても頻繁に利用されています[※3]。
グリシンが多く含まれている主な食品での、100g中の含有量は次のとおり。
参照:愛媛県産業技術研究所研究報告『愛媛県で水揚げされる魚介類の含窒素エキス成分量(第1報)』[pdf]
100g中に含まれる量がこの程度なので、3gを摂取しようとしてもなかなか難しいもの。やはり毎日効率的にグリシンを摂取しようとすると、サプリメントでの摂取が最善でしょう。
グリシンの摂取にはサプリメントが効率的ですが、毎日続けなければいけないサプリメントだからこそ、気になるのはその価格です。実はグリシンのサプリメントは高価なものが多く、金銭的な負担が大きくなってしまうかもしれません。そして、過剰摂取による危険性も考慮すると、不安が残る方も多いのではないでしょうか。
睡眠の質を高めるための成分としては、テアニンという成分もあります。テアニンのサプリメントは、グリシンよりもリーズナブルで続けやすいでしょう。また、過剰摂取をしても、副作用の危険性はほとんどありません。
過剰摂取をしてしまった時にも安全で、継続しやすいサプリを選ぶなら、テアニンが配合されているサプリの方がおすすめです。
[※1]The Pharmaceutical Society of Japan『睡眠改善食品 機能性表示食品成分グリシンを中心として』[pdf]
[※2]石端 真和『アミノ酸摂取が競泳選手の自覚的な睡眠の質とコンディションに与える影響』[pdf]
[※3]消費者庁『販売しようとする機能性表示食品の科学的根拠等に関する基本情報』
[※4]食品安全委員会肥料・飼料等専門調査会『対象外物質評価書 グリシン』[pdf]
[※5]日本建築学会『サーカディアンリズムを考慮したオフィスの温熱環境制御が執務者の深部体温とその他生理・心理・作業効率に与える影響』[pdf]
[※6]公益財団法人 明治安田厚生事業団『低強度・短時間のストレッチ運動が深部体温,ストレス反応,および気分に及ぼす影響』[pdf]
[※7]社団法人 日本騒音制御工学会『“快適音楽”聴取による脳波変動』[pdf]
[※8]日本生体医工学会『脳波自動判読のための覚醒度自動判定法』[pdf]
[※9]公益社団法人 日本薬学会『薬学用語解説 徐波睡眠』
[※10]味の素株式会社『アミノ酸“グリシン”(※1)摂取により、入眠時の深部体温を低下させ、睡眠の質・睡眠量が改善されることを発見!』