寝る時間を削って仕事や家事をする女性
現代社会に生きる女性の中には、仕事で責任ある立場に就いていたり、働きながら家事も頑張っていたりするせいで、寝る時間がないという人も増えており、睡眠不足による悪影響は社会的にも重大な課題となっています。
働く女性は睡眠時間を削りがち
1日は24時間と決まっていて、働く時間や家事の時間を確保しようとすれば、他の時間を削らなければならないことが当然です。
研究によると、日本人の男性と女性では、女性の方が睡眠時間がやや短い傾向があるというデータが得られています。
また、女性の正規雇用者と非正規雇用者を比較した時、正規雇用の女性は仕事に費やす時間を、日々の睡眠時間を削ることで確保しようとして、非正規雇用の女性は、労働時間を家事の時間で調整する傾向があることも分かりました。(※1)
もちろん、これは正規雇用者と非正規雇用者で、労働時間の長さに違いがあり、削れる家事時間に限界があるということも理由の1つでしょう。ですが、少なくとも正社員として日々、頑張っている女性の中に、仕事の為に寝る時間を犠牲にしている人が多いということは、とても大きな問題です。
「病は気から」という言葉がありますが、「健全な精神は健全な肉体に宿る」という言葉もあるように、体が疲れ切っていると、好きなことをして心のストレスを解消しようとしても、なかなか上手くいきません。
そして睡眠不足が当たり前になってしまうと、様々なトラブルのリスクが高まってしまいます。
肌荒れ、日中の疲労感、肥満や生活習慣病のリスク上昇、さらには特に女性の場合、ホルモンバランスが崩れて生理不順が起こったり、更年期障害が悪化したりという深刻な問題に発展する恐れもあります。中でも、更年期障害の重症度は女性の「生活の質(QOL)」を長期的に下げるというデータもあり、睡眠不足の弊害が一時の問題で済まないことは珍しくありません。(※2)
寝る時間がないまま頑張り続けると、いつでもイライラするようになったり、些細なことで不安になったりと、心の状態が不安定になってしまいがちです。また、その状態が続けば、今度は眠りたくても眠れない睡眠障害や、うつ病を発症してしまう可能性も考えられます。(※3)
体の疲れや眠気、不安感や焦燥感が強くなってしまうと、注意力や思考力が低下して、結果的に仕事の効率が低下しやすくなってしまいます。
加えて、顧客や取引先と接しなければならない営業職や接客業、サービス業などでは、疲れていてもそれを顔に出すことが許されず、余計に無理をしなければならないこともあるでしょう。
もちろん、上司として責任ある立場に就いている女性であれば、部下や、さらに上の人間に対して弱気を見せられないこともあり得ます。
言うまでもなく、十分な睡眠時間を確保できるなら、それがベストです。
ですが、どうしても寝る時間が確保できないまま、それでも心身の健康を保とうとすれば、1つの解決策として睡眠の質を高めることが挙げられます。(※4)
睡眠の質が向上すれば、同じ睡眠時間でも高い疲労回復効果が期待できる上、起床時や日中の眠気も改善しやすくなるので、忙しい女性にとってはとても重要です。
「睡眠衛生」とは、健康で快適な睡眠を確保する為に、睡眠に関する問題点を解決して、良質な睡眠を得られる環境を整えていくことです。
具体的な睡眠衛生の内容については、研究者などによっても差があるものの、例えば以下のようなものがあるとされています。(※4, 5)
睡眠衛生を向上させるには、まず睡眠の質を低下させる習慣を止めることが必要です。
そもそも人間を含めた多くの動物の体内時計やホルモンバランスは、太陽の光によって大きな影響を受けます。
つまり、起床時は明るい光を浴びて、時間の経過で変化する光を感じながら、夜には薄暗い場所で心身をリラックスさせて、睡眠中は可能な限り光の刺激を抑えることが大切ということです。
ですが、現代日本では夜でも明るい場所が多く、なかなか大自然の中のような環境に身を置くことはできません。ましてや、スマホやパソコン、テレビなどは目に強い刺激を与えるものです。その為、なかなか眠れないからといってベッドに入ったままスマホで時間を潰したり、夜遅くまでパソコンやテレビの画面を見つめていたりすれば、生体リズムが狂い、睡眠の質を悪化させてしまうことにつながりかねません。(※4, 5)
世界的に見ると、日本人は睡眠薬の使用頻度が低い反面、寝酒を習慣化している人が多い傾向にあるともいわれています。
確かに、少量のアルコールは精神をリラックスさせる上、酔うと眠気も誘うので、一見すれば寝苦しい夜の寝酒として効果的であるように思えるかも知れません。しかし実際は、飲酒は睡眠を浅くして、結果的に睡眠の質を悪化させることにつながってしまいます。(※6)
たばこのニコチンや、コーヒー・紅茶などに含まれるカフェインには覚醒作用があり、就寝前の喫煙やカフェイン摂取は睡眠の質を低下させる一因です。
尚、カフェインの影響は3時間程度続くという報告もあり、またカフェインの利尿作用は、人によっては夜間の中途覚醒を引き起こす原因にもなります。(※6)
食事をして血糖値が上がると、眠くなってしまう人は少なくありません。ですが、就寝直前にご飯を食べると、胃の中にあるものが寝ている間に食道へ逆流して、食道炎などを引き起こすことがあります。
また、マウスを使った実験によって、高脂肪の食事が体内時計を狂わせることや、肥満・糖尿病のマウスでは体内時計に異常を来していることが確認されていて、人間でも食事のメニューによって睡眠の質が変化する可能性はあるでしょう。(※7)
少しでも長く睡眠時間を確保しようとして、ベッドに入った時に「早く寝よう、早く寝よう」と意識しすぎることは、余計に脳を興奮させて入眠を妨げます。
また、睡眠に対してだけでなく、日常生活の中で抱える様々な不安感は、不眠症などの睡眠障害を引き起こす要因として知られています。
もしもベッドに入ってもなかなか寝付けない時は、焦って寝ようとするのでなく、眠くなるまで待ってみることも大切です。(※3)
睡眠衛生を向上させる方法としては、様々なものが挙げられます。
肝心なことは、全てを無理に試そうとするのでなく、自分に合っていそうなものを、リラックスした状態で行うことです。
日常の生活における行動や習慣は、睡眠の質を高めることに直結しています。
体内時計は、朝の光によってリセットされるようになっています。その為、体内のリズムを適正に保つ為に、朝起きた時点で明るい光を浴びることは重要です。
日常的に朝食を食べない人ほど、睡眠の質が低下し、睡眠の持続時間にもばらつきがあるという結果が得られています。(※6)
また、ビタミンや食物繊維が豊富な食事を心がけ、体の健康状態を良好に保つことは、生活習慣病の予防に役立つだけでなく、体の免疫力や回復力も強めてくれます。
体が健康であれば、睡眠中の体力回復や起床時の満足感も高まるので、短い睡眠時間であってもよりよい効果を得られやすくなるでしょう。
加えて、十分なタンパク質を摂取することも大切です。
タンパク質は人間にとって非常に重要な栄養です。(※8)
もしもタンパク質が不足してしまえば、人の体は細胞や組織を作る材料がなくなってしまい、睡眠中の充分な体力回復は望めません。加えて、タンパク質は美容と健康に関わる様々な酵素、「幸せホルモン」のセロトニン、生理や更年期障害に関わる女性ホルモンなどを作る為にも不可欠な栄養であり、女性のQOLを考える上で欠かすことのできない成分となっています。
適度な運動習慣が睡眠の質を向上させることは、複数の研究で報告されています。(※6)
とはいえ、忙しい女性ではなかなか運動の時間を確保することが難しい場合もあるでしょう。
しかし、必ずしもジムに行ったり、ジョギングをしたりする必要はありません。例えば、日常的に階段を使う、自宅にいる時はつま先立ちで歩いたり屈伸運動を心がけたりするなど、普段の暮らしの中でできることから始めることが大切です。(※6)
入浴中のマッサージによって体の血行を促進させたり、蒸しタオルや温かいアイマスクによって顔や目元の血行を良くしたりすることで、肉体的にも精神的にもリラックスして安らかに眠れるようになるかも知れません。
血行が改善すれば代謝が上がって身体機能も向上するので、睡眠中の回復効果も高まることが見込まれます。
深くゆったりとした腹式呼吸で自律神経を調節して、ストレスや不安感を緩和させられることが研究によって報告されています。
普段の活動中や、就寝時に意識的な腹式呼吸を行うことで、全身の緊張をほぐして、より良質な睡眠を獲得できる可能性は高いといえるでしょう。(※9)
寝室やベッドなどの睡眠環境も、睡眠衛生の向上にとって欠かせません。
肌触りが良くて心地良い寝間着に替えたり、特に枕やマットレスをオーダーメイドしたりすることは、場合によっては睡眠の質を劇的に改善できることもあります。
自分に合った温度や湿度を調節したり、光や音の刺激を抑えたりして、自分が眠りやすい環境を寝室に調えることは重要です。(※6)
例えばラベンダーの香りのように、ある種の香りが神経に作用して興奮を静めることは有名です。ただし、中には匂いが気になって眠れなくなる場合もあるので、香りの選択は注意すべきポイントです。
とはいえ、睡眠の質を向上させる香りの成分には、ヒマラヤスギやマツに含まれるセドロールのような、とても弱い香りでありながら、高いリラックス効果を持つものもあり、無数にある「香り」の中から、お気に入りの香りを探すことも楽しいかも知れません。(※10)
脳をリラックスさせるアミノ酸「テアニン」を配合されたサプリのように、睡眠の質を高める睡眠サプリも人気を集めています。
テアニン(L-テアニン)は、お茶とキノコの一部からのみ発見されているアミノ酸で、緑茶の旨味に関する成分です。
また、テアニンは血液から脳に直接届く成分であり、血圧を下げたり、記憶力を高めたりする他、脳梗塞などの脳血管障害にも良好な影響を与えるとされています。(※11)
研究によって、テアニンを飲んでから30分ほど経つと、リラックスを示す脳波であるα波が発せられ、さらに睡眠段階を示すθ波へ続くことが分かっています。
加えて、テアニンはカフェインの興奮作用を抑制することも分かっており、脳の状態を穏やかにして、良質な睡眠を目的とする人にとって有用性の高い成分といえるでしょう。(※11)
テアニンは高級な茶葉ほど多く含まれており、単にテアニンを摂取するだけであれば、就寝前に緑茶を飲めば可能です。
ただし、就寝前に水分を摂りすぎると、夜間にトイレへ行きたくなって目を覚ます可能性を高めてしまう為、注意しなければなりません。
そこで、睡眠サプリなどを使ってテアニンを効果的に摂取することは、良質な睡眠を叶えたい人へのサポートとして魅力的です。
この他、テアニンは冷え性や更年期障害など、女性を悩ませる諸問題を緩和させるともいわれており、生活習慣や睡眠環境を調えつつ、睡眠サプリを上手に活用していくことが大切です。
睡眠の質を上げるためには、ライフスタイルの見直し・改善が欠かせません。また、できるだけ質のいい睡眠を取るためのサポートとして、サプリメントを摂取することも有効です。
ですが、ライフスタイルにおいてどのような部分を改善すればいいのかわからなかったり、いろいろ試してみても短く質の良くない睡眠しかとれなかったりする場合には、睡眠分野を専門としたクリニックに相談してみることがおすすめです。 睡眠専門のクリニックとは、普通の内科のような医院とは異なり、体の不調以外にも不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害に対応してくれる医療機関です。質の良くない睡眠しか取れないということは、睡眠専門のクリニックに相談するに値するトラブルです。
「これくらいのことで…」と我慢せずに、一度受診してみるのはいかがでしょうか。また、いい睡眠をとれない原因には、なにか他のトラブルが隠れている可能性もあります。睡眠以外にも何か不安点がある場合には、メンタルヘルス面をトータルでケアしてくれる、対応疾患の数が幅広いクリニックを選ぶと安心です。
以下は、都内でおすすめの睡眠分野・メンタルヘルスを専門としたクリニックです。
診療科目 | 精神科 |
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院長 | 神山 園子 |
住所 | 東京都港区赤坂2-9-3 第一松浦ビル3階 |
診察時間 | 9:30〜12:30、14:00〜18:00、日曜日は10:00〜13:00 |
休診日 | 隔週木・土・祝 |
特徴 | 溜池山王駅(東京メトロ銀座線・南北線)、国会議事堂前駅(東京メトロ丸の内線・千代田線)から近く通いやすい位置にあるクリニックです。日曜日も診察をおこなっているため、平日は忙しいという人でも受診することができます。睡眠関係以外にも、うつ病やパニック障害、ストレス関連障害など幅広い疾患を取り扱っているため、メンタル面においてトータルでケアをおこなってくれるクリニックです。また、女性医師もいるため、異性に診察・カウンセリングされることに少し抵抗がある女性でも安心して通うことができます。 |
現代社会において24時間という1日はとても短く、どうしても時間が足りなくなってしまいます。日々の事象をこなすために自分のための時間を短くしようと、削りやすいところとして睡眠時間を選択してしまいがちです。睡眠時間が不足すると、体が疲れやすくなるだけではなく、メンタル面でもダメージを負ってしまいます。できれば睡眠時間を長く取ることを意識して、どうしても短い睡眠しかとれない場合は質のいい睡眠をとれるように心掛けましょう。
※1:阿部正浩(2011),「労働時間と睡眠時間」[online]
※2:佐藤珠美(2005),「更年期女性のQuality of lifeに関する研究―中年女性の健康プロジェクトに向けて―」[online]
※3:松田春華,他(2012),「女子大学生における睡眠の質に影響する要因の検討」[online]
※4:小山恵美(2015),他,「光環境と睡眠」[online]
※5:大川匡子(1994),「現代社会の睡眠障害」[online]
※6:厚生労働省健康局(2014年),「健康づくりのための睡眠指針2014」[online]
※7:柴田重信(2014),「摂食のタイミング(時間栄養学)」[online]
※8:厚生労働省(2014),「たんぱく質摂取量」[online]
※9:坂木佳壽美(2001),「腹式呼吸が自律神経機能に与える影響―臥位安静時の自律神経機能との関連―」[online]