Menopause

更年期障害でよく眠れない

寝ても取れない疲れや眠気は年齢のせい?

更年期障害の影響は睡眠にも表れます。そのメカニズムや原因を理解し、どういった対策をしていくべきか考えてみましょう。

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更年期にあらわれる
睡眠障害

Menopausal sleep disorders

更年期の睡眠障害への対処法とは

更年期になると、「いくら寝ても眠い」「夜なかなか寝付けない」などの、睡眠障害が多く見られます。ここでは、更年期障害の一つとしての睡眠障害にスポットを当て、症状の特徴や原因、解決方法などを詳しく解説します。

更年期の睡眠障害に見られる
3つの症状

更年期に差し掛かっていても不思議ではない年齢で、かつ、以下の3つのいずれかの症状が多く見られる場合、更年期障害による睡眠障害が疑われます。

睡眠を十分にとっているのに、日中、著しい眠気に襲われる

更年期に差し掛かると、7時間、8時間などの十分な睡眠をとっているにも関わらず、日中に著しい眠気に襲われることがあります。

日本睡眠学会では、このような状態が1ヶ月以上続いている状態を「過眠症」と命名。「過眠症」を生じた場合、仕事や家事などの日常生活に様々な支障が生じてきます。

疲れているにも関わらず、夜、なかなか寝付けない

通常、日中の活動で疲れた場合、夜になれば自然とと眠くなります。たとえ疲れていなくても、動物には体内時計が備わっているため、夜は眠くなるのが正常です。

ところが更年期になると、疲れがたまっているにも関わらず、眠くならないことがしばしば。体内時計を支配しているのは自律神経ですが、更年期障害の影響によって、体内時計を適切に調整できない状態にあるのかも知れません。

十分に寝ているのに、疲れが取れた気がしない

人は睡眠をとれば疲労が回復します。ところが更年期になると、十分な睡眠をとったにも関わらず、疲れが取れないことがあります。

更年期障害の影響により、「疲れたら眠くなる」という恒常性維持機構がうまく働いていない可能性が考えられます。

以上3つの睡眠障害は、結果として、すべてが日中の活動に大きな支障をきたすもの。活動が妨げられるだけでなく、周りから「怠け者」と思われるなど、本人にとって精神的なダメージも大きいはずです。

更年期の眠気の原因は自律神経の乱れ

女性の体内では、エストロゲンとプロゲステロンという2種類のホルモンが分泌されています。これら2種類を総称して女性ホルモンと呼ばれています。

更年期に入ると、これら女性ホルモンのうち、エストロゲンの分泌量が急激に減少。従来の女性ホルモンのバランスが急激に乱れるため、体には様々な異常が生じます。その症状の一つが、睡眠障害なのです。

エストロゲンの分泌量が減少すると自律神経が乱れる

更年期に入りエストロゲンの分泌量が低下すると、体は、脳の視床下部に対して「エストロゲンを分泌させて欲しい」という働きかけをします。ところが、体は更年期障害の影響でエストロゲンの分泌量を増やすことができません。

体からの働きかけがあるにも関わらずエストロゲンが分泌されない状態に対し、視床下部は混乱します。視床下部とは、自律神経をコントロールしている大事な組織。エストロゲンのせいで混乱を起こした視床下部は、自律神経の働きまでも乱してしまいます。

自律神経とは?

神経とは、脳からの指令を全身に送るための通信網のようなもの。全身の細部にわたるまで、網の目のように張り巡らされています。

神経を大きく分けると「中枢神経」と「末梢神経」の2つ。さらに「末梢神経」は「運動神経」と「自律神経」に分けられます。

このうち「自律神経」は、呼吸や血液循環、消化など、無意識の生命活動を司る組織。エストロゲンの分泌も無意識の生命活動の一つなので、自律神経の支配下にあることになります。

自律神経が乱れると睡眠障害に陥ることもある

「自律神経」は「交感神経」と「副交感神経」に分けられます。このうち「交感神経」は興奮・緊張などを司る神経。「副交感神経」は、安心・リラックスなどを司る神経です。日中、人が精力的に活動しているときには「交感神経」が優位となり、帰宅してリラックスしているときには「副交感神経」が優位となります。

この理屈に照らすと、自律神経が乱れていない場合には、夜になると「副交感神経」が働いて自然に眠くなる、ということ。逆に自律神経が乱れている場合には、夜になっても「交感神経」が働いて眠くならないということ。エストロゲンの減少にともなって2つの自律神経の働きが乱れることで、様々な睡眠障害をきたしてしまうことになります。

眠気の解決方法

十分に寝ているにも関わらず、日中に激しい眠気に襲われる場合、また、十分に疲れが取れないような気がする場合は、そもそも睡眠の質が悪い可能性が考えられます。睡眠時間だけに目を向けず、睡眠の質を高めるよう意識することが重要です。

良質の睡眠をとるためには、更年期であるか否かに関わらず、まずは次の3点を守ることが大切。更年期に入る前から以下のような習慣がある人は、すぐにでも改めましょう。

寝る前にカフェインを摂取しない

カフェインには脳を興奮させる作用があります。寝る前にコーヒーや緑茶、紅茶など、カフェインを含んだ飲み物を摂ることは避けましょう。

寝る直前はもちろんですが、寝る数時間前の夕食時にも、なるべくカフェインを摂らないようにしてください。カフェインの作用によって意識が覚醒してしまい、睡眠がさまたげられてしまいます。

深酒・寝酒をしない

夕食時に「適量の」お酒を飲むとリラックス効果が働くため、質の良い睡眠を導きます。「適量」の目安は、ビールであれば中ビン1本、日本酒であれば1合、ウイスキーであればダブル1杯程度。この量を超えてしまうと、逆に眠りが浅くなってしまう恐れがあるため、注意が必要です。更年期の苦痛から逃れたいがため、時にアルコール依存症になってしまう可能性もあるので、深酒はしないようにしましょう。

また「寝酒は良質の睡眠をもたらす」との俗説がありますが、これは誤りです。寝る直前にアルコールを摂ることで、確かに寝入りは良くなります。しかしながらアルコールが体内で分解されると、逆に目覚めやすくなります。利尿作用も働いて必然的に起きてしまうなど、寝酒は睡眠の質を下げる原因になるので避けるようにしてください。

寝る直前にスマホやパソコンを見ない

スマートフォンやパソコンの画面からは、ブルーライトと呼ばれる光が放たれています。ブルーライトには覚醒作用(目を覚まさせる作用)があるので、寝る直前にこれらの画面を閲覧することは避けましょう。

根拠のほどは不確かですが、メール1件をチェックするだけで、エスプレッソ2杯分の覚醒作用がある、とも言われることがあります。

寝る前にはスマートフォンを玄関に置くなど、ちょっとした工夫でスマホ依存症から解放されます。どうしても寝る直前にスマホを開いてしまう人は、自分なりの方法を探してみてください。

以上3点を守るだけでも、睡眠の質は格段に良くなるはずです。

ただし、更年期における睡眠障害の場合、これらだけの対策では物足りません。自律神経に原因がある以上、上記の努力に加え、次の4点を実行してみてください。

積極的に大豆イソフラボンを摂る

大豆イソフラボンには「エストロゲン様作用」、すなわち「エストロゲンに似た作用」があることが分かっています。

大豆イソフラボンとは、文字通り、大豆に多く含まれる物質。豆腐、豆乳、納豆などの大豆由来の食品を積極的に摂ることで、減少したエストロゲンの補充作用が期待できます。

体を冷やさない

睡眠中、血液によって脳に十分な酸素が運ばれることで、睡眠の質は向上します。睡眠の質と酸素との関係については、いびきをかく人や睡眠時無呼吸症候群の人が日中に著しい眠気に襲われることからも、容易に連想ができるでしょう。

人は、体が冷えると血行が悪くなります。血行が悪くなった場合、酸素が十分に脳まで運ばれません。体を冷やさないようにして眠ることが、良質の睡眠を得るためには非常に重要です。

目覚めたら全身で朝日を浴びる

人の体の中では、いわゆる体内時計が働いています。体内時計とは、朝になると体が活動的になり、夜になると体が休息に向かう、という自然に備わっている能力の一種です。

体内時計を正常に保つためには、朝、目覚めた後に太陽の光を浴びることが効果的。できれば毎朝、目覚めた後に30分のウォーキングをするなど、太陽の光を浴びる習慣を身に付けることが理想的です。それが難しい場合には、目覚めたらすぐにカーテンを開けて、太陽の光を部屋にたくさん採り込んでください。

サプリメントを利用する

一般に「栄養療法」と呼ばれるものです。不足している栄養素を補うことで、身体の調子を整えます。日本で栄養療法に力を入れている医療機関は少なめですが、アメリカにおいては非常にメジャーな治療法のひとつです。

更年期でうまく眠れない方の場合には、睡眠をサポートする成分や気分をリラックスさせる成分を摂取すると良いでしょう。

テアニン(L-テアニン)
心身にリラックス効果をもたらしたり、睡眠を促したりする働きがあるとされています。
GABA
心身をリラックスさせる働きがあるとされています。
グリシン
自然な眠りを導く作用や、睡眠の質を高める作用があると言われています。
ビタミンB群
疲労回復効果や睡眠を促す作用があると言われています。
カルシウム
精神的なリラックス効果があるとされています。

更年期における睡眠障害にお悩みの方は、以上の対策をしばらく続けてみましょう。習慣化することで、徐々に更年期の睡眠障害が軽くなっていくかも知れません。

なお、これら対策を行なっても全く睡眠状態が改善されない場合には、速やかに医療機関を受診することをおすすめします。

婦人科を受診する

更年期障害の診療している専門の診療科は、通常、婦人科(産婦人科)です。更年期外来を専門に設置している婦人科もあるため、事前にいくつかの医療機関を比較してクリニックを絞りましょう。

更年期外来における治療法は主に3つ。「ホルモン補充」「漢方薬」「サプリメント」です。

ホルモン補充

減少したエストロゲンを、人為的に追加補充する治療法。そもそも更年期障害の原因はエストロゲンの減少にあるため、ホルモン補充を受けることで、問題の多くは解決します。

睡眠障害を始めとした更年期障害の基本的な治療法であり、かつ、保険診療でもあるので、安心して受けることができるでしょう。

漢方薬

婦人科では、ホルモン補充にあわせて漢方薬を処方する場合があります。

一般に漢方薬は「体質改善には良いものの、即効性がない」と思われる傾向がありますが、それは誤りです。確かに数年がかりで徐々に効き目が表れるタイプの漢方薬もありますが、即効性のある漢方薬もありますし、副作用もあります。

医療機関が睡眠障害の症状を細かくヒアリングし、最適な漢方薬を選んでくれるでしょう。

心療内科を受診する

更年期の症状のうち、主に精神症状が強く現れているがために睡眠障害を誘発している場合、心療内科や婦人科で、一時的に抗うつ剤や抗不安薬などが投与される場合があります。

更年期の眠気対策にオススメの成分、テアニンとは

上の説明で少し触れた、睡眠サプリメントの成分のテアニンについて説明しましょう。テアニンには睡眠サポートに加えて更年期症状の緩和に関する実験データも報告されており、睡眠に関するお悩みを持つ40代以降の女性にはピッタリの成分と言えます。。

テアニンにおける更年期症状の緩和効果

2005年、太陽化学株式会社(三重県四日市市)は、緑茶成分に含まれるアミノ酸、L-テアニンにストレス軽減効果や更年期症状の緩和効果があることを、ヒトを対象とした実験において確認しました。

被験者は35~60歳の米国の女性。L-テアニン50mgを含む錠剤を1日4錠飲んでもらい、その後の体調に関してアンケートを取る形での実験です。

実験の結果、L-テアニンを飲んだグループは、偽薬を飲んだクループに比べ有意な効果を体感。特に、不安感や悲しみ、イライラなどの「ストレス」軽減効果、および、ホットフラッシュや疲労感、動悸などの「更年期症状」軽減効果が有意に確認されました。これらが緩和された結果として「睡眠の質の改善」や「集中力向上」などの効果も必然的に得られる形となりました。

気持ちの持ちようでは解決しない問題であることを自覚する

更年期における睡眠障害は、自分の意志では動かすことのできない自律神経の乱れが原因。気持ちの持ちようで解決する問題ではありません。症状を自覚した場合、まずはこの点を自分に、そして周囲に理解させることが大事です。

加えて、更年期障害の自覚を機に、これまでの生活習慣を振り返ってみてください。暴飲暴食、運動不足、ストレスの蓄積などはありませんか?生活習慣の改善を意識するだけでも、更年期障害はもとより、以後起こりうる様々な健康リスクを遠ざけることができるはずです。